原子と原子量
原子
原子は、物質を構成する、化学的手段では分割できない元素の最小単位です。
原子の中心には正の電荷をもつ原子核があり、その周囲を負の電荷をもつ電子が取り巻いています。
原子核は、正の電荷をもつ陽子と電荷をもたない中性子から構成されます。
なお、原子では、陽子の数と電子の数は一致しており、原子全体としては電気的に中性です。
4
2He
4 :質量数
2 :原子番号
He :元素記号
- 質量数=陽子の数+中性子の数
- 原子番号=陽子の数=電子の数
元素記号
元素は簡単な記号で表されます。
危険物乙4試験で頻出の元素とその元素記号は次のとおりです。
水素 H (Hydrogen)
炭素 C (Carbon)
窒素 N (Nitrogen)
酸素 O (Oxygen)
原子量
原子量は、原子の質量を表します。
(炭素原子の質量を基準とし、他の元素の原子の相対的な質量を表したもの)
分子と分子量
分子
分子は、2つ以上の原子から構成される電荷的に中性な物質で、その物質の化学的性質を失わない最小の構成単位です。
化学式
化学式は元素記号を組み合わせて物質の構造を表示する式です。
化学式にはいくつかの表示方式がありますが、危険物乙4試験では、その物質の化学的特徴を明らかにするように書かれた式、示性式がわかれば十分です。
水 H2O
二酸化炭素 CO2
メタノール CH3OH
エタノール C2H5OH
分子量
分子量は、分子の相対的な質量のことで、分子中に含まれる原子量の総和と等しくなります。
水素(H)の原子量を1、炭素(C)の原子量を12、酸素(O)の原子量を16とすると、水(H2O)、二酸化炭素(CO2)、メタノール(CH3OH)それぞれの分子量は次のようになります。
H2O:1×2+16=18
CO2:12+16×2=44
CH3OH=12+1×3+16+1=32
C2H5OH:12×2+1×5+16+1=46
物質の極性と溶解
極性分子
極性分子は、分子全体として電荷の偏りがある分子です。
ex.水、エタノール、イオン結晶等
無極性分子
無極性分子は、分子全体として電荷の偏りがない分子です。
ex.ヘキサン、エチルエーテル、ナフタレン等
極性分子と無極性分子の溶解
極性分子同士、無極性分子同士は溶けやすい傾向にあり、極性分子と無極性分子は溶けにくい傾向にあります。
溶質 イオン結晶 極性分子 無極性分子
溶媒 極性溶媒 よく溶ける よく溶ける 溶けにくい
無極性溶媒 溶けにくい 溶けにくい よく溶ける
考え方:水(極性分子)と油(無極性分子)は混ざりにくい
参考:ちなみに、水は匂わないのに油は匂うのは、水のような極性分子は揮発しにくく、油のような無極性分子は揮発しやすいからです。
空気中に物質の分子が浮遊していなければ、匂いとして知覚できません。
物質量mol(モル)
1molは、原子または分子が6.02×1023個だけ集まった量です。
この6.02×1023をアボガドロ数と呼びます。
物質1molの質量
ある原子または分子の1molの質量は、原子量または分子量にg(グラム)の単位をつけることで表せます。
水素(H)の原子量を1、炭素(C)の原子量を12、酸素(O)の原子量を16とすると、水(H2O)、二酸化炭素(CO2)、メタノール(CH3OH)それぞれ1molの質量は次のようになります。
H2O:分子量18→18g
CO2:分子量44→44g
CH3OH:分子量32→32g
C2H5OH:分子量46→46g
物質1molの体積
1molの物質の気体の体積は、0℃1気圧(標準状態)において22.4Lとなります。
化学反応式
化学反応式は、化学式を用いて化学変化の内容を表したものです。
反応物質の化学式(反応前の物質、反応系)を左辺に、生成物質の化学式(反応後の物質、生成系)を右辺に書き、右向きの矢印(→)で結びます。
左辺と右辺でそれぞれ原子の数が等しくなるように、それぞれの化学式の前に係数をつけます。
係数はもっとも簡単な整数比になるようにし、係数が1の場合は表示しません。
メタノールの燃焼
2CH3OH+3O2→2CO2+4H2O
危険物乙4試験での化学反応式
危険物乙4試験では、簡単な有機化合物の燃焼についてのものが出題されます。
例えば、
- 化学反応式の係数
- 反応物質がnグラムのときの反応物質の質量
- 反応物質nグラムを完全燃焼させるために必要な酸素量
を問うもの等が出されます。
完全燃焼の化学反応式の作り方
メタノールを例にして、完全燃焼時の化学反応式をつくっていきます。
(1)化学反応式の反応物質と生成物質を定めます
メタノールは、十分な酸素の存在下で完全燃焼すると二酸化炭素と水になります。
反応物質:CH3OH、O2
生成物質:CO2、H2O
(a)CH3OH+(b)O2→(c)CO2+(d)H2O
:まだ係数は定まりません。
(2)それぞれの係数を定めます
左辺と右辺でそれぞれ原子の数が等しくなるように係数を定めます。
炭素(C)に着目
炭素(C)は右辺ではCH3OH、右辺ではCO2にしかありません。
CH3OHには炭素は1つ、CO2には炭素は1つです。
したがって、(a)×1=(c)×1となります。
水素(H)に着目
水素(H)は右辺ではCH3OH、右辺ではH2Oにしかありません。
CH3OHには水素は4つ、H2Oには水素は2つです。
したがって、(a)×4=(d)×2となります。
ここまでで(a):(c):(d)=1:1:2 …(※)になることがわかります。
酸素(O)に着目
係数の比から、連立方程式を解く方法もあります。
((a)×1+(b)×2=(c)×2+(d)×1)
しかし、試験では(※)の係数の比を使って酸素(O)の数を数えてしまう方法がいいでしょう。
(a)、(c)、(d)にそれぞれ1、1、2をおくと
CH3OH+(b)O2→CO2+2H2O
となります。ここで右辺と左辺の酸素数を数えると、
左辺 :1+(b)×2
右辺 :1×2+2×1=4
左辺=右辺なので(b)×2=3、(b)=3/2となります。
したがって、(a):(b):(c):(d)=1:3/2:1:2となります。
係数はもっとも簡単な整数比になるようにするので、すべてを2倍にして、
(a):(b):(c):(d)=2:3:2:4
とします。
(3)化学反応式の完成
上記のように定まった係数を使い、化学反応式は
2CH3OH+3O2→2CO2+4H2O
となります。
危険物乙4試験では化学反応式を丸暗記する必要はありません。
エタノール(C2H5OH)もメタン(CH4)もベンゼン(C6H6)も、同様にして化学反応式をつくることができます。
少し時間はかかるかもしれませんが、落ち着いてやれば必ずできます。
反応速度と化学平衡
反応速度
反応速度は、化学反応が進む速度です。
化学反応のためには、反応する物質の粒子が互いに衝突し、反応する必要があります。
粒子の衝突の頻度が多くなるほど、粒子が反応しやすくなるほど、反応速度は大きくなります。
反応速度を大きくする要因
衝突頻度が多くなる要因
- 濃度が高い(粒子の数が増える)
- 圧力が高い(粒子の密度が高まる)
- 温度が高い(粒子の運動が活発化)
粒子が反応しやすくなる要因
- 触媒の存在(物質の活性化エネルギーの必要量を下げる)
触媒
触媒は、反応する物質の活性化エネルギーの必要量を下げて、化学反応を進行しやすくする物質です。
反応前後で自身は変化せず、反応速度を大きくします。
活性化エネルギー
物質が化学反応を起こすためには、その物質が活性化した状態となる必要があります。
物質が活性化するために必要なエネルギー量が活性化エネルギーです。
触媒の特徴
触媒によって、反応速度は変化しますが、それ以外は変化しません。
- 触媒によって平衡の移動は起こらない
- 触媒によって反応熱が変化することはない
また、触媒は反応の前後で変化しないので、反応式に書かれません。
化学平衡
化学平衡は、可逆反応で、正反応と逆反応の速度が等しくなり、反応が停止したようにみえる状態です。
可逆反応
可逆反応は、正反応と逆反応がともに起こりうる反応です。
- 正反応:反応物側から生成物側へと進行する反応
- 逆反応:生成物側から反応物側へと進行する反応
可逆反応の例
窒素と水素からアンモニアを生成する反応
N2+3H2⇄2NH3+92.2kJ
具体例で出題されるとすればこの反応です。
不可逆反応
正反応しか起こりえない反応が不可逆反応です。
有機物の燃焼反応(例:メタンの燃焼)
CH4+2O2→CO2+2H2O
ルシャトリエの法則(平衡移動の法則)
「可逆反応が平衡にあるあるとき、濃度、温度または圧力等が変化すると、その変化を打ち消す方向に平衡が移動する」
N2+3H2⇄2NH3+92.2kJ
- 濃度:N2を増やす→N2が減る方向に平衡が移動→右方向に平衡が移動
- 温度:温度を上げる→温度が下がる(吸熱)方向に平衡が移動→左方向に平衡が移動
- 圧力:圧力を高める(分子の密度が大きくなる)→分子数を減らす方向に平衡が移動→右方向に平衡が移動(左辺:4分子、右辺:2分子)